【目的】継続的な身体運動による海馬の神経新生の増加に海馬での血管新生が関係するか否かについて検討した。このために、血管新生を促進させるVEGFの受容体Flt-1に対する特異的阻害剤であるSU1498を投与することによりVEGFを介した血管新生を抑制したマウスに4週間の持久的走運動行わせ、運動による神経新生の増加に対する血管新生の関与の有無を検討した。 【方法】実験動物には8週令の雄C57/BL/6マウスを用い、これらを無作為に(1)安静群、(2)運動群、(3)運動+SU1498群の3群に分け、4週間飼育した。全てのマウスにAlzet浸透圧ポンプをマウスの腹腔内に埋め込み、(1)と(2)群には生理食塩水、(3)群にはSU1498を含む浸透圧ポンプを埋め込んだ。また、(2)、(3)群にはトレッドミル速度20m/分、1日60分のトレッドミル走を週6日行わせた。4週間目にBrdUを腹空内投与し、翌日、麻酔下で左心室から生理食塩水を灌流した後に脳を摘出した。脳は4%パラホルムアルデヒド・リン緩衝液に浸して一晩固定した後に脳切片を作成し、抗BrdU抗体を用いた免疫組織染色を行い、海馬の歯状回のsubgranular zone(SGZ)におけるBrdU陽性細胞数を測定して海馬での神経新生を調べた。また抗CD31抗体により染色された血管内皮細胞を測定して、海馬領域における毛細血管量を測定した。 【結果・考察】継続的な持久的運動トレーニングは海馬での血管新生と神経新生の増加をもたらした。しかし、これらの運動トレーニングによる効果はVEGF受容体阻害剤の投与により消失した。この結果より、運動トレーニングによる海馬の神経新生の増加には、運動による海馬での血管新生が関与することが示唆された。
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