「目的」本年度においては、ストレスによる学習記憶力の低下を身体運動は改善させるが、その改善効果に脳の血管新生が関係するか否かについて検討した。「方法」8週齢の雄C57/BL/6マウスを無作為に4群に分け、以下の実験条件で4週間飼育した。(1)コントロール群:身体拘束と運動を負荷せずに飼育した。(2)拘束群:毎日8時間、拘束用ゲージにより身体拘束を負荷した。(3)拘束+運動群:拘束用ゲージによる身体拘束を負荷し、その後にトレッドミル走を行わせた。(4)拘束+運動+SU1498群:拘束用ゲージによる身体拘束を負荷し、その後にトレッドミル走を行わせた。全てのマウスの腹腔内に浸透圧ポンプを埋め込み、(1)~(3)群のマウスに埋め込む浸透圧ポンプには生理食塩水を充填し、(4)群のマウスには血管新生を促進させるvascular endothelial growth factor(VEGF)の受容体Flt-1の特異的阻害剤であるSU149を充填した浸透圧ポンプを埋め込んだ。トレッドミル走は前年と同様に行わせた。2週間目にBrdUを腹空内投与し、4週間目に学習記憶能力を測定するためにwater maze test(WMT)を行った。WMT終了の翌日に脳を摘出し、抗BrdU抗体を用いた海馬歯状回のBrdU陽性細胞数の測定とCD31抗体を用いた海馬歯状回の血管密度の測定を行った。「結果」4週間の拘束ストレスにより学習記憶能力、海馬の神経 新生、海馬の血管密度は共に低下したが、これらの低下は運動の継続により改善された。しかし、VEGF受容体阻害剤の投与は運動による改善効果を阻害した。これらの結果より、身体運動の継続はストレス由来の学習記憶能力の低下を改善し、その改善効果には海馬の神経新生と血管新生が関係していることが示唆された。
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