筋損傷に対する微弱電流刺激により、早期にスポーツ復帰が可能となるケースが一部に経験されているが、その詳細なメカニズムは不明である。本研究は微弱電流刺激による損傷筋の再生促進のメカニズムを明らかにすることを目的に3年計画で実施され、今年度はその最終年度に当たる。過去2年間の研究結果を基に、損傷骨格筋に対する微弱電流の再生促進効果について検討した。生後7週齢の雄性マウス(C57BL/6J)を用い、2週間の後肢懸垂によりヒラメ筋を萎縮させた後、通常飼育に戻し再荷重することでヒラメ筋に微細な損傷を惹起させた。その後、微弱電流刺激(20μA、0.3Hz、250msec)を1日1回60分間、週2~3回の頻度施行し、微弱電流刺激の有無による萎縮ならびに筋損傷からの回復を評価した。その結果、萎縮ならびに筋損傷により低下した筋乾燥重量および筋タンパク量は、微弱電流刺激により回復が促進した。病理学的評価では、微弱電流刺激により損傷筋の再生が促進する傾向が認められ、骨格筋組織幹細胞である筋衛星細胞は微弱電流刺激により増加した。また、タンパク合成に関わる細胞内シグナルの活性化もみられ、損傷骨格筋の回復過程におけるAktおよびp70 S6 kinase(p70S6K)のリン酸化レベルが一過性に増加し、微弱電流刺激はAktおよびp70s6Kの両リン酸化レベルを再度増加させた。さらに、骨格筋細胞の分化への関与が考えられているp38mitogen-activated protein kinase(p38MAPK)のリン酸化レベルも微弱電流刺激により増加した。したがって微弱電流刺激は、筋衛星細胞の活性化とタンパク合成系および筋細胞分化系の細胞内シグナルを活性化することで損傷骨格筋の再生を促進させることが示唆された。
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