研究概要 |
甲状腺ホルモンは脳の成長発達に重要であることが広く知られている.本年度は甲状腺ホルモンの合成阻害剤であるプロピルチオウラシルを飲料水(0.02%PTU)として母ラットに3週間与え、母乳を介して甲状腺ホルモンを撹乱した仔ラット(PTUラット)の行動観察を行った.まず,不安傾向を観察するため十字迷路テストを実施した.その結果,PTUラットでは十字迷路における総移動距離,オープンアームへの進入回数・滞在時間が増加し,Hyper Activityと抗不安傾向を示した.次に運動機能を観察するためロータロッドテストを実施した.ロータロッド(4rpmから40rpmに速度を漸増)においては,7週齢時までロッド上での走行時間が短く,協調性運動障害を示した.小脳は運動制御に重要な役割を果たしているので,小脳の組織学的観察を行った.その結果,小脳ではプルキンエ細胞と顆粒細胞の配列異常が認められた.しかし8週齢以降はノーマルラットとの走行時間の相違はなく,運動機能の回復が認められた.学習・記憶能力を観察するため1日当たり4試行のモリス水迷路テストを5日間実施した.モリス水迷路学習において,ノーマルラットでは水面下に隠されたプラットホームに到達するまでの逃避潜時が学習3日目で10秒以内になったのに対し,PTUラットでは学習5日目でも10秒以上の逃避潜時を有し,空間記憶・学習能力の低下が認められた.その際,PTUラットではプラットホームに到達するまでの遊泳距離がノーマルラットよりも長く,PTUラットとノーマルラットの遊泳速度に相違はないことから,空間記憶・学習能力の低下が遊泳機能の低下によるものではないと考えられる.以上のように,乳児期の甲状腺ホルモン撹乱により行動学的特性の変化が認められた.今後,脳内での神経栄養因子等との関係を検討していく予定である.
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