楽器演奏家の多くが筋骨格系障害を抱えているが、スポーツ医学のように特化した治療・ケア手段は確立されていない。そこで、科学的根拠にもとづく医療(EBM)の観点から検証し音楽家医学(Performing Arts Medicine)の発展に鍼灸治療が役立つ可能性について検討する研究計画を立案した。平成21年度はまず現状を知るための横断研究(質問紙調査)を実施した。 【対象と方法】阪神地区のプロ・セミプロ音楽家(A)、および関東地区の企業勤務のアマチュア管弦楽団員(B)を対象として半構造化した質問紙を直接配布して回収した。質問内容は、演奏楽器の種類、経験年数、一日平均演奏時間、身体症状の有無、症状部位、症状内容、治療の有無、代替医療受療の有無などとした。 【結果】66名から回答を得た(A:42名(男15、女27)、B:24名(男8、女16))。主な症状は、A:頚肩背こり22名(52%)、腰のこり・痛み6名(14%)、頚痛・肩痛5名(12%)、手首痛5名(12%)など、B:頚肩背こり11名(46%)、頚痛・肩痛6名(25%)、手首痛3名(13%)などであった(のべ人数)。治療は、A:マッサージ27名、湿布13名、鍼10名など、B:マッサージ8名、鍼5名、指圧5名などであった(のべ人数)。鍼灸受療希望に関しては、A:無料なら20名(48%)、千円なら21名(50%)、二千円なら12名(29%)、B:無料なら12名(50%)、千円なら12名(50%)、二千円なら7名(29%)であった。 【考察・結語】年齢やプロ・アマに関係なく、多くの楽器演奏家が運動器系症状を抱えており、様々な代替医療や自己治療を好んで受療していることが確認できた。次のステップとして、これらの治療の有効性のエビデンスを検討する作業を、鍼灸を中心として行う予定である。
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