楽器演奏家の多くが筋骨格系障害を抱えているが、スポーツ医学のように特化した治療・ケア手段は確立されていない。そこで科学的根拠にもとづく医療(EBM)の観点から検証し鍼灸治療が役立つ可能性について検証し、音楽家医学(Performing Arts Medicine)の発展につながるかどうかを検討した。平成22年度は、音楽大学生の抱える心身の傷害の現状を調査し、また実際に鍼治療を行った自覚症状の変化を観察した。 【対象と方法】関西で音楽家を輩出することで有名な2大学に協力を求め、音楽学生の心身状態および実施している治療法に関する質問紙調査を実施した。また、その回答者の中から有志を募って、実際に鍼治療を受けてもらい心身の反応を観察した。 【結果】253名の学生から回答を得た。愁訴部位は肩、腰、首、手首、腕の順に多く、症状はこり、痛み、腱鞘炎の順に多かった。治療はマッサージ、湿布、整体の順に多く、鍼治療は6.7%が受療していた。鍼は肩こり、腰痛、腱鞘炎などに対して効果が期待されていた。5名の有志を対象として実際に鍼治療を行った結果は現在解析中であるが、鍼に対する自覚的症状の変化には、受療者によってかなりの幅があった。 【考察・結語】音楽学生は様々な運動器系症状を抱えており、その多くが病院以外の治療を試しているが、鍼治療はあまり普及していないことがわかった。鍼治療は自覚的な改善に個人差が著しいため、効果のエビデンスを検証するにあたっては受療者の個別性を考慮できるような臨床研究方法論を導入する必要性が示唆された。
|