鍼灸が音楽家医学に貢献できる可能性について検討した。音楽大学生の質問調査の結果、症状と演奏楽器の多様性のため本研究の規模でランダム化比較試験を実施するのは困難であると判断し、個々の症例の内的妥当性を検討するN of 1 trialを実施した。 【対象と方法】関西の音楽科をもつ2大学から楽器演奏による障害を訴えている5名を選出し、鍼灸治療を行った。研究デザインはN of 1 trialによるA-B-A方式とした。主要評価項目は最もつらい症状の1~4位とし、副次的評価項目は心理状態と演奏の出来具合に関する主観的10点スケールとした。 【結果】5例中4例において、主要評価項目の少なくとも1症状が施術期間に軽減する傾向が見られた。しかし再び設けられた無治療期間にも軽減状態が持続している傾向があったため、鍼治療の持ちこし効果なのか自然変動なのかを判断することは困難であった。一方、5例中4例において主要評価項目の少なくとも1症状が施術直後に有意に軽減しており、特に頚肩こり(最良の例で施術前の56%)と腰痛(同49%)の改善が著しかった。5例中1例において施術後の倦怠感が認められた。 【考察・結語】鍼治療は受療者によって反応が大きく違うことが確認されたが、総じて肩こりと腰痛に対する施術直後の効果に優れていた。臨床的に個別の反応を考慮しながら行えば、鍼灸(少なくとも鍼治療)は少なくとも運動器系の一部の症状を改善することにより音楽家の演奏活動に貢献できる可能性が示唆された。
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