研究概要 |
前年度の検討において、骨格筋組織特異的にTFE3を高発現するトランスジェニックマウス(αACT TFE3 Tgマウス;Tgマウス)の骨格筋組織では、hexokinase2(HK2),glycogen synthase1(GYS1)などのグリコーゲン合成経路に関わる遺伝子の発現が増強し、それに伴い骨格筋における有意なグリコーゲンの蓄積や運動耐容能の増強などを認めることが明らかとなった。そこで本年度はこのTgマウスの糖代謝について詳細な検討を行った。この結果、ベスラインの血糖やインスリン値は野生型と差はないものの、インスリン負荷試験(ITT)において、Tgマウスのインスリン感受性は野生型と比較して有意に高く、さらに1ヶ月の運動トレーニングを行うことによりインスリンの感受性は野生型以上に増強されることが明らかとなった。この要因として、先述のHK2やGYS1などの遺伝子発現に加え、Tgマウスでは、運動トレーニング後にInsulin receptor Substrate-2(IRS2)の遺伝子発現が上昇することが挙げられた。以上の結果より、骨格筋における転写因子TFE3は糖代謝を改善し、さらに運動耐容能を増強する作用を併せ持つことが明らかとなった。これらの効果は生活習慣病への治療に有効的な効果をもたらす可能性が期待される。 さらに、既存の報告においてTFE3は、肝細胞において蛋白合成を亢進させ、細胞を肥大させることが報告されていることから、TFE3が筋肥大に与える影響について評価を行った。その結果、Tgマウスは野生型と比較しても筋重量に差はなく、運動負荷をかけても有意な差は認められなかった。しかしながら人為的に筋組織を挫滅し、その再生過程を評価したところ、Tgマウスではわずかながら再生筋が肥大を示す傾向を認めた。今後これらの点ついてさらに検討を進めていく予定である。
|