研究概要 |
一昨年度の結果を踏まえて,血漿量に着目した検討を終え、昨年度からは、運動後低血圧(PEH)の効果の持続と定着に関する実験を開始した。今年度はさらに、持久性トレーング期間におけるPEHの急性効果の定着について検討した。【方法】健康な男性9名が本実験に参加した。各被験者は、1週目・8週目を運動なし条件とする8週間のトレーニング実験(3回/週)を行った。トレーニング運動は、50%HRRの強度、60分間の一定負荷自転車エルゴメータ運動とした。1週目・8週目は、運動なし条件で安静60分間の血圧・心拍数を測定した(安静測定)。2週目・4週目・7週目にはPEHを確認するために、運動後に60分間の安静測定を行った。また8週間を通して、睡眠中の血圧を、ホルタ心電・血圧計で記録した(夜測定)。また、同時に心拍動をRR間隔で測定し、周波数解析により自律神経系緊張度の評価をした。【結果・考察】2週目・4週目・7週目における運動後の血圧は、運動前と比較して、運動後30分~60分に収縮期血圧において有意な低下がみられ、PEHが確認された。睡眠中の血圧を観察すると、1週目の睡眠時間中の全平均値と比較して、収縮期血圧においては5週目・6週目・8週目に、拡張期血圧と平均血圧においては2週目・6週目・7週目・8週目に有意な低下がみられた。トレーニング期後半に血圧低下が現れていることより、急性の降圧効果(PEH)が定着するまでには、週3回の1時間程度の有酸素運動トレーニングで、5-6週間の期間が必要であると考えられる。また、運動を行わない8週目にもトレーニング前に比べて、睡眠時の収縮期・拡張期・平均血圧に有意な低下が認められたことにより、トレーニングによる血圧低下は一過性のものではなく、慢性的な降圧効果につながっている可能性が示唆された。また、これらの血圧低下と自律神経系緊張度の関連性を検討したところ、トレーニング前と比較して睡眠時の平均血圧の平均値が有意に低下した5週目において、睡眠時の平均血圧が最も低下した時の交感神経の緊張度が、トレーニング前と比較して有意に低下した。以上の結果から、有酸素トレーニングにおける睡眠中の血圧降下には、自律神経緊張度の変化が関与している可能性が示唆された。
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