適度な運度療法は、肥満、糖尿病、高血圧などの多くの生活習慣病において、患者の体力やQOLの向上だけでなく、基礎代謝の向上やインスリン抵抗性を改善し効果的である。しかし、慢性腎臓病に関しては、運動療法は運動中に腎血流を低下させることより、腎機能低下を招く可能性が示唆されている。現在、腎機能障害の揃標の1つとして蛋白尿が広く用いられている。蛋白尿が出現する機序には、糸球体上皮細胞の障害や虚血、酸化ストレスなどの関与が知られている。今回、自然発症2型糖尿病腎症モデルマウスであるKK-Aγマウスを用い、運動療法が糖尿病腎症に与える影響について検討した。 KK-Aγマウスを(1)中等度運動群、(2)軽度運動群、(3)非運動群(対照)に分類し、12・20週齢の尿中アルブミン/尿中クレアチニン比(ACR)、HbAlc、血清クレアチニン、尿中β-N-acety1-D-glucosaminidase(NAG)、血清superoxide dismutase(SOD)、尿中8-hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG)を測定した。また、20週齢時の腎組織を用い、腎免疫染色法にて、HIF-1α染色・WT-1染色を行った。 12週齢から20週齢時のACR変化率は、軽度運動群では対照群と比較して有意な改善が認められた。一方、HbAlc、血清クレアチニンには、3群間で有意な差はみられなかった。また、尿中NAGは、軽度運動群において対照群と比較して有意な改善を認めた。さらに、血清SOD活性、尿中8-OHdGは、各運動群で対照群と比較して各々有意な上昇・減少を認めた。HIF-1α染色では中等度運動群で対照群と比較して、尿細管を中心にその発現の増加を認めた。WT-1染色では両運動群は対照群と比較して、糸球体上皮細胞数減少の抑制が認められた。 運動療法は酸化ストレスを是正することにより、糸球体上皮細胞数の減少の抑制・尿中ACRを改善させることが示めされた。中等度の運動においては腎虚血所見を認めたが、軽度な運動では明らかな腎虚血はみられず、糖尿病腎症患者において長期的な腎機能改善に有用であると考えられた。
|