研究課題
【目的】心疾患の危険因子の一つである高トリグリセリド(TG)血症の成因を網羅的に解析できるシステムの構築を目的とする。おもに、血清TG値は、TG分解の主酵素であるリポ蛋白リパーゼ(LPL)量によって調節されている。LPL遺伝子異常(ヘテロ型)に伴うLPL蛋白が低値(LPL正常値の50%以下)を示す場合、肝臓の内因性TG合成を促進する環境危険因子の負荷により、対象者は中程度の高TG血症になる。しかし、LPL蛋白低値にもかかわらず、LPL遺伝子に変異が見つからないケースに関して、その高TG血症の病因解明を試みた。【成果】自己免疫疾患の一種である全身性エリテマトーデス(SLE)患者において、強度の高TG血症(10,000mg/dl:正常値の60倍以上)を経験した。本患者のLPL活性およびLPL蛋白は、検出できないほど低値であったが、LPL遺伝子自体には異常が認められなかった。患者は、SLEの治療により血清TG値が正常になった。患者の治療前後の血漿中に存在するLPL活性阻害因子をLPL活性測定系において解析したところ、治療前の血漿は、LPL活性を強く阻害するが、治療過程において、この阻害活性は、消失した。このLPL活性測定結果は、SLE患者の治療後の正脂血化を良く説明できる。LPLに対する自己抗体の有無をウエスタン法にて解析した結果、LPLに対する自己抗体として-IgA型が最も強く検出されたが、この自己抗体(抗ヒトLPL-IgA抗体)は、治療後、正脂血化した患者血症でも、治療前と同程度の濃さのバンドとして検出された。この患者において、LPL活性を抑制して、高TG血症を引き起こした真の原因は明らかにできていないが、自己免疫疾患その他LPL阻害物質を産生することによって引き起こされる高TG血症の診断には、従来のウエスタン法では不適切であることが明らかになった。臨床的に意味のあるLPL阻害物質検出法は、LPLのTG分解活性を抑制するか、否かを調べる方法が適切であることがわかった。
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