本研究の目的は、中年期後期における親に対するケアの内実を感情労働やケアの社会化などの概念を用いてとらえ、ケアのあり方が夫婦関係、親子関係、きょうだい関係などにどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすると共に要介護状態にある親とそのケアの担い手がともに生活の質を保障されるようなケアのあり方を検討することにある。本年度は、研究の中心概念となる感情労働やケアの社会化について先行研究を検討した。感情労働については、在宅介護者に適用しうる、感情労働評価尺度を試験的に作成した。そして、感情労働評価の高い介護者ほど質の高い介護を行っていると考え、どのような状況がそうしたことに影響しているのかを、事例研究によって、探索的に明らかにした。 調査は、半構造化面接法で、5人の介護経験者(介護中2人、介護終了3人)に対して行った。性別は、女性が4人で男性が1人である。調査は2009年11月から12月。面接時間は90~120分。対象者の許可を得て、ICレコーダーに録音し、調査終了後、文章化した。調査項目は、感情労働の自己評価、ライフコース、介護内容・介護の社会化・援助態勢など介護に関連した項目、自己投入できるものなどである、要介護者と介護者の性別組み合わせは、女→女親(2人)、女→男親(2人)、男→女親(1人)であつた。 結果として、次のことが明らかになった。1)感情労働の自己評価が最も低かったのは男性が女親を介護しているケースであった。2)5名全員が介護保険サービスを活用している。ケアの社会化により、介護者に心の余裕が生まれる。このことは感情労働の促進に大きく影響をしている。3)介護以外に自己を投入できるものを持っている場合は、介護から一時的に離れることができるため、気持ちを切り替えて感情労働を遂行できる。4)異性間介護は入浴や排泄のケアで気を使うことが多く、感情労働の遂行に困難性を与えている。5)介護に対する直接的援助だけではなく、愚痴を聞いてくれるなどの間接的援助であっても、気持ちが軽くなり、感情労働を促進するように働く。
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