平成21年度の研究では研究対象地区の内、特に伝統的民家の集中する「有松地区」における歴史的町並みの現状に対する調査を行った。 研究の方法は、有松地区東海道沿道における現状の建造物連続立面図を作成し、当該連続立面図と1980年に公表された「歴史的環境研究会」作成の同位置における建造物連続立面図を比較する事から、双方における差異を抽出した。これによると、1980年時では、東海道を挟んで北側に56軒、南側に63軒の合計119軒の建造物が確認できるのに対し、2009年時では、北側に47軒、南側に53軒の合計100軒の建造物を確認するに留り、北側9軒、南側10軒の合計19軒が消失していた。この内、9軒の消失は現地におけるヒアリング調査から、名古屋市による土地区画整理事業によるものであり、その他の消失要因は不明である。また、1980年から2009年までの町並み全体における存続建造物数についてであるが、北側では1980年時の56軒が2009年には31軒(残存率55%)に減少。同様に南側では、1980年時の63軒が37軒(残存率58%)に減少していた。したがって、北側・南側の存続建造物合計は1980年時の119軒から、2009年時において68軒に減少し、対象地区内における建造物残存率は57%であった。すなわち、1980年からの30年間に東海道沿道における約4割の建造物が失われており、有松地区における歴史的町並みは、当該残存率の範囲において変容した事が明らかとなった。 以上から、歴史的町並みとそこにおける人々の生活をリビンクヘリテージと捕らえ、こうした文化的景観を観光資源とした自律的観光開発を導こうとする本研究の目的を鑑みる上で、当該研究結果は有用なデータベースとなり得、本年度の研究により本研究を進める上で重要な研究成果を得たと言える。
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