本研究は、健康維持や快適性に関わる基本的な衣服として肌着に着目し、環境に配慮した健康で持続可能な衣生活のための素材性能の明確化を目標とする。衣生活の段階として、(1)健康で快適に着る、(2)品質の良い衣服を永く着続ける、(3)資源として使い切ることの三段階を設定し、素材設計の段階から持続可能な衣生活を配慮した素材の性能設計システムの確立を目指す。 (1)健康で快適に着る:滋賀県高島市の伝統織物である綿クレープ肌着に着目し、構造の異なる高島ちぢみ織物の手触りによる触感の主観評価を行った。被験者は大学生男女39名として、SD法による5段階評価を、夏季と冬季に行った。「柔らかさ」と「滑らかさ」の評価は評価者間の一致性が高く、柔らかく滑らかなものが好まれた。シャリ感やドライ感は評価の一致性がやや低く、触感評価の季節差は明確でなかった。触感評価と高い相関が得られた特性は、布の厚さT0と曲げ特性、せん断特性であった。布表面のしぼによる凹凸が小さくT0の小さい薄い試料や、曲げ剛性Bやせん断剛性Gが小さく柔らかい試料が好まれた。(2)永く着続ける:快適な寝床内気候を提供するために、高島ちぢみ織物を用いた介護服を製作し、重度心身障害者施設において着用試験を行った。高島クレープ織物は洗濯による収縮が大きいため、縫製前に布を収縮させる工夫を施した。衣服型は着脱がしやすい甚平型を設定した。高島織物による介護服は施設の介護者や保護者から良好な評価が得られた。1シーズン着用による布の性能変化としては、曲げ柔らかくソフトになる傾向が確認された。(3)資源として使い切る:和服の再利用と再生利用、生活文化として継承されている布の有効利用について引き続き資料収集を行い、生活用品としての高島クレープ肌着の有効利用の方法を検討した。
|