本研究では、人体や環境への負荷が小さく、より安全な染毛法の創製を目指している。 今年度は、これまでに開発した染毛用染料であるカテキノンの生成機構を詳細に研究し、さらにその知見を基にして、より高い生成速度・収率で染料が得られるような反応条件を探った。その結果、カテキノンは酵素反応・電気酸化反応・化学酸化反応など、多様な反応によって得られることが明らかになった。そして、それぞれの反応において、高速度・高収率で染料を得るための最適条件を決定した。その条件として、反応溶液の基質濃度・酵素濃度・pH・温度が重要なことがわかった。また、反応系への酸素導入と金属イオンの添加が染料生成を促進することを明らかにし、導入速度や添加濃度の最適値を決定した。 以上より、それぞれの反応系におけるカテキノンの生成機構について知見が得られ、(+)-カテキンからカテキノンに至る過程を反応系を超えて統一的に理解することができた。また応用面として、染料をより効率的に生成させるための反応条件が明らかになり、染料を実際に生産する場合にどのような条件にすればよいかの方向性を示すことが可能となった。 一方、(+)-カテキンやその他の天然由来のフラボノイド物質と安全性の高い鉄化合物による錯形成を用いた染毛系の研究を行ない、毛髪を濃~黒色に染色可能な方法を確立した。そして、この系においても染料の形成機構を明らかにし、染色の最適条件を見い出した。 このように、本年度の研究で得られた染料と染毛系は、希求されている安全な染毛により近づいた系であると考えられる。本研究の成果は、さらに天然由来の染料形成機構の解明・染料新規染毛法の創製・新しい染毛科学の開拓につながるという意義をもつといえる。
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