天然由来物質(バイオベースマテリアル:BM)を用いた、人体に安全で環境低負荷型の新規染毛法を実現し、染料生成・染色機構を明らかにするとともに、新しい染毛科学を拓くことを目的として本研究を行なった。その結果、次の知見・結果が得られた。 (1)(+)1カテキンを酵素酸化することにより、色素【カテキノン】が得られ、カテキノンによって毛髪を黄~橙~茶色に染色できる。また、他のBMの併用によって様々な色調が得られる。(2)カテキノンは皮膚刺激性を示さず、これで染めた毛髪色の洗髪堅ろう度・耐光堅ろう度が十分高い。(3)カテキノンの化学構造や、紫外線でも褪色し難いなどの性質を明らかにした。(4)酵素を用いた染料合成において、カテキノンの生成速度・生成量を最大にする最適条件を得た。(5)カテキノンの生成機構を明らかにした。(6)染毛用染料は電気化学法・化学酸化法でも得られることを見出し、その方法を確立した。(7)染料の合成効率を飛躍的に向上させる方法を明らかにした。(8)安全な鉄化合物を用い、黒色に染毛する方法を見出した。(9)染料の毛髪への吸着過程と浸透過程を明らかにした。(10)茶抽出物を原料に用いても、(+)-カテキンと同様に色素が得られ、毛髪を赤橙~赤茶色に染色できる。 本研究によって、安全性が従来の染毛剤と比較してより高く、堅ろう度の高い染毛用染料として、カテキノンなどの色素が利用可能なことを明らかにした。これによって、皮膚の炎症やその他の疾病のために現行の染毛剤が使えない人々の毛髪を安全に染色することができるようになるかもしれない。また、先進国での高齢者の増加も含めた世界的な染毛人口の激増によって、安全な染毛法の需要はますます高まることが予想され、持続的に得ることが可能なBMを用いた本研究成果は、この課題への答えとして重要である。一方、染料生成機構や染色機構を解明するための糸口が得られ、染毛科学進展のための出発点となった。
|