住宅内で繁殖しているカビについて、多くの株を採集した。浴室、洗濯機、居間などの窓目地、台所の水周りなどの住宅の各部分について、ふき取りなどによりカビのサンプルを採取した。野外については、21年度のカビのサンプリングは、主として住宅内や大阪市内及びその近郊だったが、さらに奈良春日大社などの原植生でも採集を行った。それらの類似種や同種のカビ間の生理的、遺伝的関連を調べた。また、雑木林と自然林の双方によく見られるPhoma属のカビについて遺伝的比較を行い、界面活性剤利用能力との関連性を検討した。 生理的性質については、温度耐性、アルカリ耐性を調べた。浴室のセメント部分はアルカリ性で、pH9.2でも、中性の場合と同程度生育できることが確認できた。また、このアルカリ耐性が石鹸を栄養とするという特性とどのように関連しているかについても吟味した。21年度に行った各株の生理的、遺伝的特性の解明に続いて、それらのデータを総合的に体系化する作業を行った。各種の得られたサンプルについて、リボゾームDNAの塩基配列を比較し、各株の分子系統的な類縁関係を解明した。そして、種内の変異について、塩基の欠失や挿入などの多様性を比較した。さらに、遺伝的な類縁関係と生理特性、さらには生態的特性との関連を見た。このプロジェクトの遂行には、世界レベルでの形態類似種の遺伝子データの蓄積が必要であるが、代表者はその研究分野の世界的先導役であるオランダCBSの研究者と情報交換を頻繁に行ってきた。英国エジンバラ市で行われた国際菌学会で、CBSの研究者と分子系統について議論した。
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