浴室に生育するカビも、他の多くの地球上の生物と同様に人類の生活の影響を強く受けている。私達の住宅のカビは人工的な環境でのみ生育できる。浴室に多いカビは、合成洗剤の成分である非イオン界面活性剤をより多く添加した培地ほどよりよい生育が見られた。また、アルカリ性の培地ででもよく育った。このような特性を持つScolecobasidium属のカビは、日本各地の多数の浴室から分離され、また遺伝的にもよく一致していた。また、ヨーロッパの浴室でも同様の生理的・遺伝的形質のカビがいくつか見つかった。しかし、これらの浴室の菌株は、自然界から分離された既知のいずれの種とも異なっていた。 野や山から採集されたScolecobasidium属の10種のカビについて調べてみると、2種が非イオン界面活性剤利用能やアルカリ適性のあることが分かった。また、その1種が浴室に多く生育する株と近縁であり、野外のカビが浴室のカビのルーツであると考えられた。さらに、界面活性剤利用能のあるカビは、石灰岩帯の土壌や山焼きや葦焼きをした後の灰などのアルカリ性土壌からしばしば分離された。 住環境中のカビは、そのルーツと考えられる多様な野生種のカビの中から、特殊な環境に適応した生理的特性の少数の株が、室内で繁栄するようになったと考えられるようになった。さらに、このような現象が、世界各地の住環境で起きていることが実証された。
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