本研究では、醤油や味噌を加熱調理に用いることで形成される、食欲をそそる新規で強力な香気成分を同定し、その形成メカニズムと、その香気が形成される調理加工条件を明らかにすることを目的とする。21年度は、味噌・醤油の加熱により特異的に生成される3種の新規揮発性含硫化合物を同定し、新しい抽出方法を確立して定量した。その結果、同定された3成分は、閾値をはるかに超えて醤油中に存在し、加熱によりその濃席が4~10倍まで増加することが明らかとなった。また、官能検査により特に2成分の併存が加熱による香気変化に大きく貢献することを明らかにした。 22年度は、醤油発酵熟成過程におけるこれら3成分の生成を明らかにするため、6種類の条件でモデル濃口醤油を仕込んだ。これら3成分は酵母の関与により発酵熟成中に生成し、その含量はモデル濃口醤油の火入れ後に増加した。従って、醤油中の3種の揮発性含硫化合物においてこれらの生成に重要な前駆物質の生成にぽ葵酵熟成過程で酵母が重要な役割を果たし、酵母発酵と加熱の作用により生成すると推定した。23年度は、加熱調理による3種の揮発性含硫化合物の生成機構を解明するため、発酵期間、製品の加熱温度が異なる市販の濃口醤油と薄口醤油における3成分の含量及びこれら醤油の、調理加熱による含量の変化を比較した。薄口醤油は濃口醤油より調理加熱の前後で3成分の含量が少なかった。これは濃口醤油よりも発酵期間が短く、低温で処理していることが要因だと推測した。また、酵母による3成分の生成機構を解明するため、22年の試醸で酵母による生成量が最も多く、不斉炭素を持つEthyl 2-mercaptopropionate(ET2MP)の光学異性体の分離条件を確立し、醤油におけるその存在比率を明らかにした。その結果、ET2MP光学異性体の存在比率はほぼ1:1であり、酵母のET2MP生成への関与は限定的で、生成における最終段階への関与はないことが示唆された。
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