視覚はおいしさを感じる上で大きな役割を果たしている。日本料理においては、色彩が鮮明で美しいことが大切にされるが、見た目の美しさは素材の天然色を生かす調理法、盛り付け方など、視覚上の演出方法によるところが大きい。食における色の効果を大切にしてきた我が国には、和菓子という伝統的な菓子がある。和菓子には、(1)季節や行事により種類・色・形・材料などが使い分けられる、(2)形や色テクスチャーが多様である、(3)カロリーが低い、(4)卵や小麦粉に起因する食物アレルギーの心配が少ないなど、他国の菓子には見られない優れた特徴を持つ。 一方、現代社会においては、加工品の普及により、簡便性、合理性、利便性が重視され、食における色彩は軽視される傾向にある。また、食生活の洋風化により、柏菓子の喫食頻度は減少傾向にあり、食文化の継承という面において懸念すべき状況にある。本研究室では、和菓子の中でも色の美しさが特徴であり、色の配色や形の変化により季節感や造形美を表現できる練りきりに着目し、研究を進めており、いくつかの知見を得ている。和菓子の色が食嗜好や食行動に与える影響については本研究室以外では全く研究が行われておらず、新規性のある研究といえる。加えて、健全な食嗜好・食行動・食習慣の形成や食文化の継承には幼少の頃から体系的に食教育を行なう必要があるが、実践例の報告はほとんどないのが現状であり、本研究は食文化の継承という面からも貢献できる。 本年度では、練りきりの食嗜好と色嗜好について、大学生を対象とした調査および実践研究を行なった。さらに、前年度に実施にした小学生の調査結果と比較しながら、成長に伴う食嗜好や色嗜好の変化、および食行動への影響を追究した。今後はこれらの調査をもとに世代に応じ左、練りきりの色彩を用いた新たな食育のあり方を検討していく。
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