フードテクスチャー刺激による多様な脳機能回路の維持・賦活を解析し、フードテクスチャー評価を神経科学的にアプローチすることが本研究の目指すところである。 フードテクスチャー・サンプル3種;破断性食(C食)、粉体食(P食)、ゲル食(G食)を用い、脳のいろいろな部位、すなわち小脳、中脳、橋、間脳、海馬、終脳における、テクスチャー刺激の影響を調べた。賦活部位の検出は、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)の量を計測し、その変動を指標とした。 BDNF量は、給餌開始2週間後の間脳および海馬で、サンプル間に有意な差が認められた。いずれもP食が高い値を示した。なお、1週間後および4週間後にはこれらの有意差は認められなかった。一方、NGF量は、給餌開始後2週間の海馬および終脳でのみ、P食が高い傾向を示したが、統計学的な有意差は認められなかった。 BDNFは脳内ストレス反応物質のひとつであり、その作用は多様である。脳の虚血耐性を高め、シナプス形成による記憶力を増強する反面、神経細胞死を誘導する作用もある。 P食でBDNF量に変化が見られたが間脳は、自律神経系の高次中枢であり、脳内でストレスに対応する主要な部位である。また、海馬は短期記憶を担う部位であり、ある種のストレスを受けると海馬依存性の記憶力が低下することが知られている。そして、積極的口腔内刺激によりこの種の記憶力低下を防ぐことができることも明らかにされている。 歯を使わず舌でなめ取るように摂取するP食は、3サンプルの内、口腔内刺激が最も弱いと考えられ、それによるストレスが間脳、海馬に特にかかると推測される。そして、そのストレスに対応しBDNF量が増加したと考えられる。また、G食はP食に比較し、一般的なC食により近似していると推察される。
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