鉄補充に汎用されているヘムは生命維持に必須である。ヘムは生体内で、ヘム分解酵素ヘムオキシゲナーゼ(HO)によって、ビリベルジン、鉄、一酸化炭素に分解され、生じたビリベルジンは速やかに抗酸化物質ビリルビンに変換される。HOには誘導型のHO-1と構成型のHO-2の2つのアイソザイムがあり、HO-1の誘導は酸化的ストレスなどに対する重要な生体防御反応で、種々の疾患の治療・予防への応用が期待されている。HO-1の発現は、転写活性化因子Nrf2や転写抑制因子Bach1などの転写因子群によって主に転写レベルで調節され、ヘムはBach1に直接結合することでBach1-Maf二量体のDNA結合を阻害して、転写抑制の抑制(脱抑制)によって、HO-1の転写を亢進させる。 本年度初めに、亜鉛錯体の胃潰瘍治療薬であるポラプレジンクがHO-1の発現を誘導することが、報告された。亜鉛や鉄をはじめとする金属や金属錯体は重要な栄養素であるとともに、遺伝子発現調節作用も持つ。金属や金属錯体に重点を置いて、HO-1発現調節の主要な転写抑制因子であるBach1などの機能調節を中心に解析したところ、コバルトを中心に持つポルフィリンはBach1-MafKのDNA結合を阻害したが、亜鉛、マンガン、スズを中心に持つポルフィリンや中心に金属を持たないポルフィリンは阻害しなかった。一方、コバルト、亜鉛、マンガン、スズなどの金属塩は、いずれも結合を阻害しなかった。ヘムやコバルトプロトポルフィリンIXは強力なHO-1誘導物質であるが、それ以外の金属ポルフィリン誘導体は転写誘導作用を持たないか弱いものが多い。金属ポルフィリン群のBach1-MafKのDNA結合阻害作用の結果は、HO-1の転写誘導能と良く一致したことから、これらの化合物によるHO-1誘導には、Bach1-MafKのDNA結合阻害作用が重要である可能性が示唆された。
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