我々は、主要食物アレルゲンであるオボムコイドがヒト母乳中に特異的IgAとの免疫複合体(IC:Immune Complex)として存在していることを明らかにし、その生理的存在意義は経口免疫寛容の誘導抗原としてであり、したがって"母乳は食物アレルギー予防の天然の飲むワクチンである"という仮説に基づいて研究を進めてきている。本年度は、この仮説を証明する為にラットを用いた動物実験を行った。 食餌中のタンパク質が卵白由来のみのE群、牛乳由来のみのM群に分けてSDラットを飼育した。各群ラットの母乳中に、各々の食餌タンパク質とIgAとの免疫複合体が存在することをサンドイッチELISA、ゲル濾過で確認した。また母乳のみで育った両群の3週齢の仔ラットに卵白タンパク質を免疫した場合、E群においてオボムコイド、オボアルブミンに対する血清IgG1産生が抑制されていた。一方、牛乳タンパク質を免疫した場合には、M群においてカゼインに対する血清IgG1産生が抑制されていた。よって、母乳哺育によって母親が食べたタンパク質特異的に経口免疫寛容が成立していることが判明した。特別な医療処置を施さず、母親の通常の食生活下での母乳哺育によって乳児に寛容を誘導できることが明らかとなったことから、アレルギー疾患の予防および治療の新展開に寄与するのみならず、母子栄養の重要性を通じた母乳哺育促進のために大いに役立つのではないだろうか。 さらに、この母乳による経口免疫寛容は、離乳後3週間で解除される可逆的なものであった。母乳中のICが低濃度であることからも、母乳による経口免疫寛容はアクティブサプレッションのような可逆的な弱い寛容であると考えられる。したがって、母乳による寛容が持続している間に、離乳食を用いて乳児自らが自分の確固たる生体防御系を獲得していく必要がある。
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