研究概要 |
唐辛子に含まれるカプサイシン、および生姜に含まれるジンゲロールは、バニロイドレセプター(VR1)を刺激し、知覚神経末端から血管拡張性神経ペプチドを遊離する。我々は先に、ラットへの低濃度のカプサイシン、ジンゲロール点滴静注が、VR1を介したこの神経ペプチドの遊離により血圧を低下させることを観察した。本研究では、腎血管性高血圧(2K1C)ラットにおいて、カプサイシン、ジンゲロールの慢性経口摂取が血圧上昇を抑える可能性について検討した。雄ラットに対照食(CTL)、0,01%カプサイシン添加食(CAP)またはジンゲロールを高濃度に含む生姜抽出物食(GE)をpair-feeding法により5週齢時より7週間経口摂取させ、収縮期血圧(SBP)を測定した。途中6週齢時に各餌群それぞれにSHAM controlと2K1Cを導入した。各餌投与期間終了時、麻酔下平均血圧(MAP)の測定、腹部大動脈を用いたacetylcholine(ACh)・sodium nitroprusside(SNP)のマグヌス法での血管弛緩反応、胸部大動脈の血管壁厚を観察した。その結果、2K1C-CTL群のSBP、MAPはSHAM-CTL群に比べて有意に上昇した(ともにP<0.05)が、2K1C-CAP群、2K1C-GE群ではこのSBPの上昇を有意に抑制(P<0.05)し、さらにMAPを低下させる傾向を示した。マグヌス法において、ACh、SNPによる2K1C-CTL群の弛緩率はSHAM群と比べてそれぞれ有意に低下した(ともにP<0.05)が、2K1C-CAP群は2K1C-CTL群と比べて、AChでは弛緩率の有意な差を示さなかったのに対し、SNPでは弛緩率の低下を有意に緩和した(P<0.05)。つまりカプサイシン食は内皮よりもむしろ平滑筋細胞による弛緩率低下を緩和する可能性があり、このことが血圧上昇抑制につながっている可能性が示唆される。さらに血管壁厚については、血管径/全径比が2K1C群ではSHAM群と比べて有意に増加し(P<0.05)、CAP食はCTL群と比べて、SHAM群、2K1C群に関わらず有意に血管径/全径比を低下させた。なお生姜抽出物食群については、マグヌス法、血管観察各々において、カプサイシン食群と同様の傾向を認めるものの、検体数が未だ限定的でばらつきが大きい為有意差の確認に至らず、現在さらに検討を進めているところである。
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