われわれはラットを用いた過去の研究によって、食品中辛味成分カプサイシンおよびジンゲロールを多量に摂取した場合には血圧上昇につながるが、少量摂取した場合バニロイド受容体を介し、CGRP、サブスタンスPを放出させ、NO活性を刺激して、血管弛緩を伴った血圧低下につながる可能性があるということを急性投与実験において明らかにした。本研究では、それらの知見をもとに、食品中の辛味成分カプサイシン、ジンゲロールを日常的に少量摂取することによって、高血圧の発症・進展を予防することが可能であるか否かを動物実験により検討している。具体的には、正常血圧ラットおよび高血圧モデルラットを用いて、カプサイシン、ジンゲロールの慢性経口投与が血圧および大血管の弛緩性に与える影響を調べているが、平成21年度までの研究によって、一定量のカプサイシン、ジンゲロールの慢性経口投与は、ともに正常血圧モデルラットの血圧には影響を与えないが腎血管性高血圧モデルラットの血圧上昇を抑制すること、またカプサイシンの慢性経口投与は高血圧モデルラットの大血管弛緩性低下および中膜肥厚を抑制することなどを確認している。平成22年度は、ジンゲロールの慢性経口摂取によってもカプサイシンと同様にこの高血圧モデルラットの大血管弛緩性低下や中膜肥厚を有意に抑制することを観察した。さらに腎血管性高血圧モデルラットにおいて、NOS遮断薬L-NAMEの継続的投与が、カプサイシン慢性経口投与による血圧上昇抑制などの効果をほぼ消滅させることを観察したことから、カプサイシン慢性経口投与による効果の機序においても、急性投与の場合と同様にNOが関与している可能性が示された。
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