われわれはラットを用いた過去の研究によって、食品中辛味成分カプサイシンおよびジンゲロールを多量に摂取した場合には血圧上昇につながるが、少量摂取した場合バニロイド受容体を介し、CGRP、サブスタンスPを放出させ、NO活性を刺激して、血管弛緩を伴った血圧低下につながる可能性があるということを、急性投与実験において明らかにした。本研究では、それらの知見をもとに、食品中の辛味成分カプサイシン、ジンゲロールを日常的に少量摂取することによって、高血圧の発症・進展を予防することが可能であるか否かを動物実験により検討した。すなわち、正常血圧ラットおよび高血圧モデルラットを用いて、カプサイシン、ジンゲロールの慢性経口投与が血圧および大血管の弛緩性に与える影響を調べた。平成22年度までの研究によって、一定量のカプサイシン、及びジンゲロールを高濃度に含む生姜抽出物の慢性経口投与は、ともに正常血圧モデルラットの血圧には影響を与えないが腎血管性高血圧モデルラットの血圧上昇を抑制すること、またカプサイシン、生姜抽出物の慢性経口投与は高血圧モデルラットの大血管弛緩性低下および中膜肥厚を抑制することを観察し、さらに腎血管性高血圧モデルラットにおいてカプサイシン慢性経口投与による血圧上昇抑制などの効果をほぼ消滅させることから、カプサイシン慢性投与による効果の機序においても、急性投与の場合と同様にNOが関与している可能性を示した。平成23年度においては、生姜抽出物のこれらの効果を再確認するとともに、新たにその摂取が高血圧予防のみならず一旦血圧上昇したラットの血圧を下げる、つまり少なくとも初期の高血圧に対して治療的効果があることを観察した。その上でNOの関与を含めたメカニズムの探索を行ったが、年度内においては確定的な結果を得るには至らず、現在も継続して検討を続けているところである。
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