研究概要 |
結核(症)は年間200万人の死を招く最大級の細菌感染症である。結核の70%以上は世界人口の1/3に潜伏感染している結核菌の再増殖(内因性再燃)により発症する。結核発病者には複数の結核薬が長期にわたって投薬されるため、結核薬は副作用の低いものでなければならない。この観点から、われわれは自然界に存在する食品成分および放線菌産生物質から抗結核作用を有する物質の探索を行っている。昨年度は結核菌と遺伝子がほぼ同一である牛型結核菌弱毒株BCGに対するポリフェノールの増殖抑制作用を検討したが、本年度は結核菌に対する抗菌活性および細胞内に感染した結核菌の増殖抑制作用(結核菌は細胞内寄生菌であることから)について検討した。 フラボン、ルテオリン、アピゲニン、ケルセチン、ケンフェロール、カテキン、ピロカテコール、クルクミン、レスベラトールは1mM以下の濃度でBCGに対して増殖抑制が見られたが、結核菌(H37Rv)や大阪府下の超多剤耐性結核菌(XDR)に対して同じ濃度で増殖抑制が見られたポリフェノールはフラボン(H37Rv:1mM,XDR:0.5mM)、ルテオリン(H37Rv,XDR:0.5mM)、ピロカテコール(H37Rv:0.25mM,XDR:0.5~1mM)のみであった。マウスの骨髄由来マクロファージに結核菌を感染させ、低濃度のポリフェノールを添加して培養し、細胞内の菌数を算出した。スクリーニングの結果、数種類のポリフェノールに結核菌の増殖抑制活性がみられ、しかもその作用は菌直接に対する濃度よりもはるかに低濃度であった。また、細胞毒性もほとんどのポリフェノールは微弱であった。これらの結果はポリフェノールが菌に対する直接的な増殖抑制作用をもつ以上に細胞の活性化を介した増殖抑制作用の方が顕著であることを示しており、結核予防や治療に有用である可能性が示唆された。
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