我々は、豆乳を栄養源として得た新規乳酸菌代謝生産物質PS-B1に、幅広い癌細胞増殖抑制スペクトルや肝硬変予防作用があることを明らかにしてきた。本年度においても、PS-B1が示すこれらの生理活性について、(1)分子レベルでの作用機序の解明、及び(2)生理活性を示す乳酸菌発酵成分の特定、の両面から研究を進めた。 PS-B1を正常細胞(肝細胞)と癌細胞(HL60)に対して作用させると、癌細胞においてのみ細胞内活性酸素種量が有意に増大した。これが一つのtriggerとなって、癌細胞内のカスパーゼ3の活性化とDNAの断片化が顕在化し、アポトーシスが誘導されることが明らかになった。PS-B1の癌細胞増殖抑制スペクトルの作用機序については、細胞周期や解糖系酵素への影響等も考慮しなければならないが、アポトーシスが有力な経路の一つであることが判明した。また、抗癌剤Ara-Cの癌細胞への投与において、PS-B1との併用により抗癌効果を保持した上でのAra-C投与量の軽減化にも成功した。次いで、ラット肝細胞および肝星細胞を用いて構築したアルコール性肝硬変モデルに対するPS-B1投与実験の結果、PS-B1が細胞内活性酸素量の制御を介して肝細胞の壊死および肝星細胞のコラーゲン産生を抑制することが明らかになった。また、エタノール感作の2時間前に肝細胞に対してPS-B1を作用させると、PS-B1の肝細胞保護作用が顕著に増大することも判明した。現在、PS-B1が肝細胞や肝星細胞内のアルコール誘発性活性酸素種量をどのように制御しているかその作用機序を検討している。 (2)の実験においては、PS-B1の有機溶媒抽出ライブラリーを構築し、ポリフェノール類が豊富に含まれていると推定されたメタノール画分を用いて逆相HPLCに供与した。今後、各生理活性を指標としたスクリーニングを経てこれらの物質を同定する。
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