研究概要 |
金星太陽面通過観測による地球太陽間距離測定の歴史について、国内外で発行されている解説等の文献調査を行った。多くの場合、この問題について最初の提案を行ったEdmond Halleyの考察が充分省みられておらず、いくつかの文献では単純化され誤った解説が行われている。すなわち、地球上の異なる観測地点からの金星視差により太陽面上の金星が異なる通過経路をたどるため、この経過時間差から太陽視差が求められるとの解説である。ハレーによって提案された方法・原理はこれとは異なり、地球上の観測地点の自転効果の相違(地球の表裏では反対方向)に影響され金星通過時間に差異が生じるというものである。このことがハレーの原論文(A new Method of determining the Parallax of the Sun, or his Distance from the Earth)の解読から明らかとなった。 金星太陽面通過観測においては金星の太陽縁接触時刻の正確な測定が必要になるが、17世紀の観測においてこの点で正確に時刻を刻む時計の確保が必須であった。これと関連して振子時計の原理となっている振子の等時性とその破れが問題となる。等時性を保つ工夫としてホイヘンスが考案したサイクロイド振子についてその原理の解説、再現実験を行い(研究発表論文)、科学史上の実験、観測における時間測定について考察した。 太陽面の観測を投影型望遠鏡、光学望遠鏡、Hα太陽望遠鏡で試み、またビデオカメラ等による記録方法について検討を進めた。金星太陽面通過現象の「観察」という点では、投影型望遠鏡(Sunspotter)が取り扱いの容易さ、安全性から優れている。金星通過時刻の計測やこの現象の映像記録という点ではHα太陽望遠鏡とCCDカメラによる観測・記録システムの構築が望ましいこと、これらを具体化するうえでの課題を明らかにした。
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