本年度は, 1)文化の多様性と科学の普遍性の関係を,具体的な実験を通して考察させるための学生実験テーマ開発,2)社会における科学的議論の具体例として法廷での科学の解析から,科学教育としての問題的の同定,の2つを主要な研究テーマとして研究・開発を進めた. 1)学生実験のテーマ開発では,東北大学の全学教育として実践研究している自然科学総合実験において,a) 文科系学部向けの実験, b) 理科系学部向けの実験,双方の実験カリキュラムを全体的に見直してテキストを書き換え,理科系学部向けについては改訂版を書籍出版した(文科系学部については,数年後に行われる予定の改訂版出版の基礎とし,学生には改訂版を個別印刷・配布し,授業に用いた). 科学的知見の普遍性に加え,(科学で決まることとだけではなく)科学自体では決まらないことを把握することにより,個人の価値観の多様性に基づく文化の多様性を,より的確に理解し,建設的な科学的議論が促進される.改訂された教材を用いることで,この側面が,より理解されやすくなることが,クリッカーも活用した授業での学生の反応から定量的にも示唆された. 2)法廷での科学的議論については,科学教育からみた旧来の日本のカリキュラム上の問題を解析し,岩波書店の講座「現代法の動態」において,科学教育界に留まらない,具体的問題提起を行うことができた.今後の研究において,この問題の解析をさらに進める予定である.
|