研究概要 |
本研究は,生徒の物理概念に対する誤概念を把握し,IT機器を効果的に活用して正しい概念に導く指導方法について,地域の高校教員と大学教員が共同で,米国物理教育研究(PER)の成果であるアクティブ・ラーニングのひとつ「Interactive Lecture Demonstrations(ILDs)」の力学分野を実践的に検討し,高校や大学の初年次教育における新しい授業プランを開発することを目的としている。本年度は,昨年度に日本の高校生を対象として実施した「ILDs公開講座」の成果を基に,日本の高校大学の物理授業において実施可能な授業プランを検討し,研究会に所属する高校教員(5校,6教員)と大学教員(1校,1教員)が勤務校において実践し,その効果および課題について検討した。特に,ILDs授業の核となる学習者間の討論を活発にするIT機材として,回答応答システム(クリッカー)を導入した。なお,授業の評価は,前年と同様に「FMCE(力と運動の概念評価課題)」を用いて,授業の前後における学習者の力学概念の変化により行った。その結果,高校では,わずかながら誤概念の改善(改善された生徒の割合:約5%)がみられたものの,正答率は授業後においても1割程度と,ほとんどの学習者にとって概念が定着していないことが明らかになった。一方で,大学では,物理の履修経験にかかわらず正答率が(3割→7割)と大幅に上昇し,しかもそのほとんどが3ヶ月後においても下がらず,概念が定着していることがわかった。このような高校と大学での効果の違いの原因として,(1)いずれもクリッカーの導入により学習者の興味関心を引くことには成功しているが,高校では生徒,教員とも討論に慣れておらず,有効に機能していない,(2)高校生のこの学習への動機付けが難しく,ILDs授業だけでは概念が定着しにくい,などが考えられた。今後は,これらの課題をもとに,高校でのILDs授業の有効活用に向けたより実践的な授業プランを中心に検討していく必要がある。
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