研究概要 |
認知モデルに基づいた概念理解を促進する教授法の開発およびeラーニング教材の開発のために,学習のつまずき原因を認知心理学的に分析することが重要であり,このための主要単元の理解度調査の継続実施と,調査結果の認知心理学的分析を行った.調査については,21年度のデータが,履修者数154のうち全テストを受験したデータが77個と少なかったことから,22年度も年間計16回の主要単元に関する計43問の理解度を測定するためのテストを再度実施しデータ量の不足を補った.その結果,21年度のデータとの合計で,履修者数で235名,うち全16回の調査試験を一度も欠席しなかったデータとして118個のデータが得られた.調査データの分析のために,調査問題43問のそれぞれに対する分析対象者118名の正誤パターン(正解1,不正解0)のデータとしての,43行×118列のデータをクラスター分析のローデータとした.クラスター分析によって43問の問題は,2つのクラスに大きくわかれ,さらにそれぞれが4つずつのサブクラスに分かれることが見出された.これらのクラスを詳細に分析することで,以下のような教育上の示唆が得られた.一般に,多項式空間はベクトル空間としての抽象度が高く,その習得難易度において数ベクトル空間と大きな差があると考えられているが,シュミットの直交化法については,数ベクトル空間と多項式空間とで習得難易度に差はなく,数ベクトル空間での理解習得が多項式空間での理解習得につながっている.部分空間の次元や基底を求める問題や対角化の実行のような抽象概念の理解が必要な計算手続きに関する問題については,概念理解のつまずきが計算手続きの習得を困難にしている.掃き出し法による計算や行列式の計算においては,計算問題の正答率の高さに比べ概念理解が低いことから暗記に頼っている学習者が多いことが示唆される.
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