研究概要 |
本研究は,学習時における学習者と教師の双方について,脳内生体情報の計測・分析をもとにその特徴を明らかにするとともに,生理学的データをもとに学習者の理解を誘発する有効な教育方法のあり方を検証することを目的としている。本年度は,実験課題の開発を主目的とし,教師役(解答把握済み)と学習者役(解答未把握)が相互に交流する過程で,安定的に解法に至る実験課題の構築を目指した。大学生9名を被験者として,3種類の規則性のある数列の実験課題(難度:低・中・高)を交互に提示する方法を用いて実験を行った。その結果,9名とも開始直後は難度の低い課題は容易に解答し,難度の中程度の課題は中程度の時間で解答し,難度の高い課題は未解答となった。その後,ヒント提示などを取り入れた実験課題を繰り返すことで,難度の高い課題についても規則を発見し解答に至るようになった。また,難度が高い課題の規則発見に伴い,難度が中程度の課題の規則の確証が不安定になり,正答率が下がるという「負の学習効果の転移」現象も確認された。 今年度は,ヒントなどにより理解する過程を安定的に検出することが可能な実験課題の開発が主たる目的であったが,実験に際しては行動観察に加え脳活動(ヘモグロビン濃度)計測を行った。計測の結果,難度の低い課題では,ヘモグロビン濃度が全体を通して上昇しないこと,難度の高い課題では,最初,ヘモグロビン濃度が上昇するが,規則性の発見後は急速に下降すること,そして,難度の中程度の課題では,最初から最後まで,中程度の上昇が続くということが明らかになった。このように,理解に至る過程の学習者役側のヘモグロビン濃度変化の特徴を明らかにすることができた。 次年度は,同様の実験課題を用いて,ヒント提示を教師役側が行い,その際の教師役側のヘモグロビン濃度変化の特徴を,学習者役側データとの照合のもと,明らかにすることを計画している。
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