研究概要 |
本研究は,学習時における学習者と教師双方の脳内生体情報の計測・分析をもとに,その特徴を明らかにするとともに,学習者の理解・発見を誘発する有効な指導方法を検討することを目的としている。最終年次の本年度は,昨年度までに計測した学習者役(解答未把握)と教師役(解答把握済み)の双方の脳活動データに,本年度計測分を新たに加え,検討を行った。除法虫食い算問題を実験課題として,学習者役は問題解決に取り組み,教師役は学習者役の解答進行状況に応じて,ヒント(解答の一部,6回分)を順に学習者役の前にあるディスプレイ画面にボタン操作で表示するようにした。14組の被験者(学習者役14名,教師役14名,計28名)に対して,実験課題3問を制限時間120秒間(各問題)として実施した。 データ分析に際しては,これまで実施してきた課題遂行時における脳活動の全体形状の比較と並行して,ヒント提示時前後各5秒間(計10秒間)の局所形状の分析を新たに行った。その結果,次の2点が明らかになった。一つ目は,全体形状分析より,課題解決に伴う学習者役のヘモグロビン濃度増加に呼応して,教師役のヘモグロビン濃度が増加する群と,教師役のそれが増加しない群が存在し,前者は心情移入型教師,後者は客観型教師という特性が見られたことである。二つ目は,局所分析より,前述のいずれの群においても,ヒント提示前後では,学習者役は増加から均衡へ,教師役は均衡から増加へという共通の傾向が見られ,学習者役はヒント提供により心的余裕が,教師役はヒント提示後の効果観察による集中が生じたと予想されたことである。 上記2点より,教師役の学習者に対する観察・ヒント提示方針の違いが,ヘモグロビン濃度の全体形状に反映するとともに,ヒント提示前後における学習者と教師の思考特性によるヘモグロビン濃度の局所的変化には,ある一定の傾向があることが明らかになった。
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