平成23年度は、平成21、22年度の調査を踏まえて、さらに日本・イギリス・アメリカにおける風洞計測に関連する歴史研究を進めるとともに、航空工学史に関する著作の準備を進めた。また7月と3月に流体力学の研究集会において空気力学の歴史に関して正体講演を行った。本年度において、年度末近くになり戦前の航空研究所の史料が見つかったが、その一部は新設の低乱流風洞に関するものであり、谷一郎の層流翼開発とも深い関わりをもつものである。また国会図書館等に所蔵されている井上匡四郎文書に含まれる技術院の審議会議事録には軍の支援を受けた「戦時研究」に関する資料があり、谷が関わった戦時研究制度の全貌も掴むことができた。イギリスの航空研究委員会の議事録・技術報告史料については、インターネット上で請求することが可能になっており、そのような請求を行い、イギリスへ渡航せずに史料を入手した。著作は『空気力学と航空の時代:国家的研究開発体制の創始と内実』と題して東京大学出版会から6月頃に出版する予定で、すでに入稿済みである。内容は、英航空諮問委員会(航空研究委員会)の研究活動を軸にして、空気力学の理論的実験的研究を追いつつ、その航空技術との関連を論じていくものである。本論7章のうち風洞についてはほぼすべての章で関わるが、特に寸法効果論争を論じる章で風洞実験の信頼性について論じる。最後の2章では境界層の理論研究と層流翼の発明が主題となるが、その研究と開発のために低乱流風洞の建設が必要であったことを指摘し、日英での新風洞建設の事情について論じる。
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