研究概要 |
デューラーの数学に関して次の点を明らかにした. ・デューラーは数学器具を数点考案し,その中にコンパスが存在する(アレベルティーナ所蔵).これをはじめとしてレオナルド・ダ・ヴィンチ,ミケランジェロなども同形のコンパスのスケッチを残しているが,彼ら画家・建築家など実践家の誰もその使用法や原理を述べていない.同時代のバロッツィやコンタリーニなどの作品を参照しながら,デューラーのコンパスの使用法や用途を明らかにした. ・コンパスの起源はアラビアに求めることができ,クーヒーやイブン・アル=フサインの数学と比較検討し,さらにアラビアの「完全コシパス」がイブン・ユーヌス学派(モースル)を通じて北イタリアにもたらされた可能性があることを指摘した. ・デューラーが楕円と卵型図形を混同したとの議論があったが,この問題はアラビア数学を射程において解決できる.すなわちアラビアでは楕円は,縦型は卵型,横型はレンズ豆型とよばれ,その円錐曲線論がルネサンス・イタリアにまで及び,そこからデューラーはアイデアを得た.また彼は数学的に正確な理解を得ていたことも示した. ・ルネサンスでは円錐曲線は古代ギリシャ的数学的理解ではなく,むしろ光学,建築,日時計への適用という実践的要求のもとに研究が開始した.デューラーにおける円錐曲線の理解もこの伝統の中にあり,彼は円錐曲線の作図法を数々考案した. ・ほぼ同時期に出版されたデューラーの三部作は,互いに関連して理解せねばならない.『築城論』はイタリア築城論から見れば新規性がないとして従来看過されてきたが,仏・独・蘭の築城論史から見るとその影響力は大きい.そこに見られる図版もデューラーの作図法から検討する必要があることを指摘した. 以上,デューラーの数学をアラビアをも射程において総合的に研究した.
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