本研究の課題は、ニュートン錬金術に関するこれまでの研究成果を継承・発展させることをめざしつつ、ニュートンの第二の主著である『光学』(1704年)と錬金術の関係を解明することにある。本年度の前半においては、ニュートン錬金術研究にとって土台となるニュートンの錬金術手稿史料について、これまでの研究状況を明らかにし、扱い方を間違えると重大な誤解が生じることを、この方面での第一人者ドブスを例として論じた。この研究成果(「ニュートン錬金術の手稿史料について:研究の現状」)は、2010年7月に開催された化学史学会で口頭発表したほか、2011年度の『化学史研究』に掲載される。 本年度の後半では、ニュートンの『光学』の成立状況を検討した。ニュートンの『プリンキピア』については、ロバート・フックとの論争が刊行の直接的な原因であったことがよく知られているが、これに比べると『光学』の刊行状況はまだ解明されていない点が残されている。とりわけ、錬金術との関係である。ニュートン研究者のウェストフォールによると、刊行直前の1690年代は錬金術研究の絶頂期であったため、錬金術研究の成果が『光学』にどのように組み込まれていたかが問題となる。調査の結果、『光学』の巻末に掲載されている一連の「疑問」だけでなく、本論にもその痕跡を見いだせることが分かった。
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