本研究は機能性食品を事例とし、科学的知識の社会構成を明らかにする事をその目的とした。すなわち、科学的エビデンスの有無を根拠とし制度上は食品と医薬品の区分が存在するものの、区分があいまいになってしまうような社会環境(利用環境)が存在するため、健康被害などのさまざまな弊害が生じているのではないかという問題意識である。この問題を明らかにするために、制度、マスメディアのフレーミング、機能性食品に対する消費者の認知などの情報を探索した。研究を遂行する途上において、当初、中心的概念として取り上げた「機能性食品」を「健康食品」に捉えなおす必要が有る事が判明したが、そうした修正点を踏まえつつ、平成23年度は研究成果のとりまとめと情報の発信を中心に課題を遂行した。結果、科学的なエビデンスの質と量の違いを基軸とした食薬区分が存在するものの、流通場面において区分を混乱させるような宣伝・販売が散見している事が明らかになった、また消費者の健康食品に対する過剰な期待の結果、不適切な利用方法といったケースも見られ、制度上の食薬区分とは別の次元でさまざまな社会的状況が明らかとなった。 上述の研究結果は、科学技術社会論学会年次大会、Society for Social Studies of Science(科学技術社会論学会国際大会)で発表すると共に、論文を執筆し国際学会誌に投稿、現在査読を受けている。すでに掲載が決定した論文として書籍に所収される論文と課題申請者が編集をした学会誌の特別号が挙げられるが、それらは平成24年度中に出版される予定である。 健康食品に関する雑誌記事と分析の結果は、現在、本務校で開講しているクラス(社会学特別研究)で活用している。社会への情報発信は、マスメディアなどの取材などに応じる形で実施した。健康食品を巡る問題は、健康被害などの実態のある問題が生じている社会問題である。それにも関わらず、社会的にあまり注目されずまた社会科学の領域でもほとんど取り上げられてこなかった。そうした背景を踏まえ、今後も本課題から得られた情報を幅広く社会に還元してゆきたい。
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