本研究の目的は、明治初頭日本における近代医学の受容に伴う「人体」像の変化のプロセスを、医療啓蒙家・民衆・形成過程にある医療専門家集団を軸に構成し直すことにある。 今年度は、次の3方向から研究を進め、以下のような成果をあげた。 1) 昨年にひきつづき、明治8年~11年に刊行された「人体問答」を表題に付けた一群の初等教科書を収集し、内容を整理してエクセル表に登録する作業を進めた。このエクセル表を分析、検討し、大阪で刊行された「人体問答」書の特徴を抽出して、その背景をあとづけた。また、「人体問答」書刊行の終息する明治13年~15年にかけての歴史的背景を教育史的、社会史的、民衆史的な観点から検討し調査を進めた。 2) 本研究の背景を成す明治初頭日本における近代医学の受容過程に関して、医療啓蒙家と、形成過程にある医療専門家集団の発信した情報の内容に踏み込んだ研究を行い論文に纏めた。また、明治初頭日本における医療者集団の再形成過程について、医療関係者たちの会であるマスターズ・コミュニティでの招待講演で「明治維新と医療」と題して発表した。 3) 明治初頭の日本に舶載され、形成過程にある医療専門家集団と民衆の人体像に大きな影響を及ぼしたフランス製人体模型の解組、修理、再組み立て過程に関して、茨城大学で行われた日本医史学会学術大会において「金澤大学所蔵キンストレーキの解組と新たに確認されたオランダ語・日本語ラベル」と題して発表した。
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