カビの微生物揮発性有機化合物(MVOC)を利用してポータブルで簡易なカビ臭検出装置開発の基礎技術を研究している。既存のイオンモビリティースペクトロメーター(IMS装置)は小型であるが、カビ発生の初期段階でカビ臭物質を検出できるほどの感度がない。また、カビのIMSスペクトルを解析するソフトウェアがない。平成21年度は次のような成果を得た。 1. IMS装置の検出感度向上のための極微量のニオイ分子捕集技術開発 固相マイクロ抽出(SPME)は微量物質の捕集方法として優れているが、既存のSPMEは長さと吸着材の塗布量が限定され、吸着効率や加熱機構との組み合わせの設計自由度が小さい。基材として128mmの長さの塗布部分を持つタングステンとレニウムを検討した。その結果、タングステンは直接通電により200℃まで加熱しても変形が無く、寿命と吸着素材との密着性において優れていることがわかった。また、通電可能で、揮発性物質(分子量が60から200程度)に適する固相吸着剤としてはポリジメチルシロキサン(PDMS)が適することがわかった。シリコーン樹脂を溶媒で溶かした後タングステンフィラメントに塗布し、吸着材として成形した。1.2Wの直流通電により、200℃まで加熱可能で、繰り返し使用可能な吸着材を作製することができた。 2. カビ臭のデータベース作成 既存のIMS装置は主に爆薬の検出のために開発され、カビ臭のIMSスペクトルデータベースはない。本研究のポータブル検出装置を用いたスペクトルから未知のカビ臭物質を推定するには、カビ臭のIMSスペクトルデータペースが必要である。H21年度においては、機知のカビの23株を培養し、カビ培養器の揮発性物質のGC/MSおよびIMSのデータベースを作成した。また、カビのMALDIMS測定のためのマトリックスとなる物質を検討した。
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