研究課題
文化財保存においてカビ(真菌類)による損傷が問題となっており、カビの発生を早期に検出できるシステムの開発が求められている。カビが目視できる段階では、10万~100個の胞子が生成しており、カビの制御は困難である。カビは光や風のない古墳の中でも成長・活動し、カビ特有のカビ臭、すなわち微生物由来揮発性有機化合物(MVOC)を生成する。MVOCは揮発性であるため、MVOCを検出することは遠隔操作でカビの成長を確認するのに適している。本研究の目的は、イオンモビリティースペクトロメトリー(IMS)を利用して、ポータブルで簡易なカビ臭検出システムを開発するための基礎技術を確立することである。カビ生育初期段階においてはカビ臭濃度がppt~ppbレベルの低濃度であるため、平成22年度においては、固相マイクロ抽出(SPME)法を利用したカビ臭濃縮装置を制作した。渦巻き状のタングステンフィラメントにポリジメチルシロキサン(PDMS)を塗布して試料ガス抽出部を作成した。消費電力は100℃にしたとき0.17Wで乾電池での使用が可能であることがわかった。さらに市販のSPMEファイバーDVB/CAR/PDMS(50/30μm、1cm)(SPELCO社製)を用いて、その加熱脱着部を作成し、その抽出・脱着の性能が十分であることを確認した。IMS装置は、元々テロ対策として開発され、常温常圧下で利用出来るガス分析装置であるため小型化でき、またガスの検出感度が高い特徴を持っているが、分解能の低さや温度湿度によるドリフト時間の変位などが現状では問題である。テロなどの目的で利用される場合はサンプル中に含まれる成分の数は一つであることが多く、事実、製品では、得られた単一ピークの成分の可能性を示すソフトウェアが付属されている程度である。本研究のカビのMVOCでは、多成分のガスを検出、同定することが必要である。平成22年度においては市販のIMS-MINI(ドイツIUT社製)を用いて4種のカビから放出されるMVOCのIMSスペクトルを測定し、ドリフトグラムの波形を解析し、波形分離に適当な関数を見出した。
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