研究課題
文化財保存においてカビ(真菌類)による損傷が問題となっており、カビの発生を早期に検出できるシステムの開発が求められている。カビが目視できる段階では、10万~100万個の胞子が生成しており、カビの制御は困難である。カビは光や風のない古墳の中でも成長・活動し、カビ特有のカビ臭、すなわち微生物由来揮発性有機化合物(MVOC)を生成する。MVOCは揮発性であるため、MVOCを検出することは遠隔操作でカビの成長を確認するのに適している.本研究の目的は、イオンモビリティースペクトロメトリー(IMS)を利用して、ポータブルで簡易なカビ臭検出システムを開発するための基礎技術を確立することである。(1)MVOCのサンプリングと濃縮方法の開発:カビ生育初期段階においてはカビ臭濃度がppt~ppbレベルの低濃度であるため、固相マイクロ抽出(SPME)法を利用したカビ臭濃縮装置を制作した。渦巻き状のタングステンフィラメントにポリジメチルシロキサン(PDMS)を塗布して試料ガス抽出部を作成した。消費電力は100℃にしたとき0.17Wで乾電池での使用が可能であることがわかった。さらに市販のSPMEファイバーDVB/CAR/PDMS(50/30μm、1cm)(SPELCO社製)を用いて、その加熱脱着部を作成し、その抽出・脱着の性能が十分であることを確認した。(2)IMSソフトウェア開発:IMS装置は、元々テロ対策として開発され、常温常圧下で利用出来るガス分析装置であるため小型化でき、またガスの検出感度が高い特徴を持っているが、テロなどの目的で利用される場合はサンプル中に含まれる成分の数は一つであることが多く、事実、製品では、得られた単一ピークの成分の可能性を示すソフトウェアが付属されている程度である。カビのMVOCでは、多成分のガスを検出、同定することが必要である。市販のIMS-MINI(ドイツIUT社製)を用いて、洞窟や文化財などで多く発生する4種のカビから放出されたMVOCのIMS計測データからカビ種を同定する方法を開発した。その結果、90%以上の正答率でカビ種を同定できた。
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Surf.Interface Anal.
巻: 44(6) ページ: 694-698
DOI 10.1002/sia.4870
Proceedings of the 59th ASMS Conference on Mass Spectrometry and Allied Topics, Denver, Colorado, 5-9 June, 2011
巻: 59 ページ: MP362