研究概要 |
たたら製鉄法あるいは前近代製鉄法により生産された鉄及びその後加工された鉄器の鉄原料の産地推定を行うために,AsとSbとの濃度比が重要な指標となることは,我々のいままでの研究ですでに明らかになっている。しかし,その方法の全てが中性子放射化分析法であることから,どこでも利用可能な蛍光X線分析法の選択の可能性を探った。本研究では,鉄あるいは鉄器中に含有するヒ素(As)及びアンチモン(Sb)をppmレベルで定量できる高感度蛍光X線分析装置を購入し,その装置の性能を評価し,文化財鉄器の原料起源の解明に本装置を供せられるかどうかを検討した。昨年度までの研究では,数ppmのAs及びSbを定量できることが明らかとなったが,その精度が数10%と大きく,特にSbの1~2ppmでは50%を超えることになり,解析方法について検討を要することになった。 両元素とも散乱線内標準法による検量線を用いて定量するが,散乱線強度を決定する範囲をできるだけ広く,できるだけ他の元素の影響の少ないところを選択しかつ試料形状が3mm角以上の面積であれば,10%以内の精度で定量できることが明らかとなった。 以上の知見を基に,すでに原子吸光分析法及びレーザーICP質量分析法により江戸初期の本願寺鉄釘を分析した試料を再度本法により分析・比較すると,3法とも分析視野の大きさが全く異なることを考慮すると,今まで以上に相関性が高い値を得ることができた。本法での検出限界は,Asでは1.2ppm,Sbでは0.7ppmであったことから,目標レベルは今一歩であったが,鎌倉・江戸期の東寺に使われていた鉄釘を本法により分析を行った。その結果,本願寺鉄釘のようにAs/Sb濃度比がほぼ等しい値は得られなく,不均質性はあるものの数グループに分類された。鉄釘の製作年代が幅広いことと,その間修理等により他の時代の鉄釘が利用されたことが推察できた。
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