研究課題
世界遺産級の石造建造物で使用されている石材や、考古遺跡における基盤岩の特徴の評価、とくに石材の耐久性に関する資質評価を、風化機構と風化速度に注目して行うことを目的として研究をすすめている。平成22年度は、フランスのランス大学の研究者と連携して、フランス国境に近いベルギー領Orval Abbey(オーバル修道院)を調査した。本修道院では、中世の建築物よりも近代の建築物で塩類風化による劣化が進行しており、保存対策につながる科学的解明が急がれている。環境データ(温度と湿度)の継続測定と塩類試料の成分分析を行った結果、乾燥期における可溶性塩類(硫酸ナトリウム)の析出に伴う石材表面の破壊が劣化の原因であることが判明した。また、ランス大学の協力により、本修道院で使用されている石材3点(天然石灰岩2点と人工岩石1点)を入手して物性を調査し、塩溶液を用いた耐久性試験を行った。強度的には堅牢な人工石材が、ひとたび塩溶液にさらされると粉々に崩壊してしまう、という結果になった。また、国内における調査地として選定した吉見百穴(埼玉県吉見町)においても、硫酸塩の析出により壁面の崩落が進行している。このような劣化は、坑道内部でも深刻な状況であり、その壁面崩落量と壁面後退速度を見積もるために、前年度より行っている環境測定(温度と湿度)に加え、新たな方法を導入し計測中である。日本における石造文化財保全とヨーロッパにおける石造建築物の修復問題に関しては、特徴的な石材(日本:凝灰岩、ヨーロッパ:石灰岩)の性質を把握し、風化メカニズムを解明したうえで、保存対策をすべきである。オーバル修道院で用いられている人工石材は、平たく言えば天然岩石とコンクリートとの中間的な物性を示しており、石材の強度特性のみに着目してセメント系材料に頼る修復方法の限界を暗に示している。
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