研究概要 |
今年度は,鹿児島湾奥を占める姶良カルデラの周辺で見られる完新世海成段丘面の高度分布・形成時期とカルデラの完新世地殻変動との関係について検討した.姶良カルデラの完新世地殻変動は,これまでの調査で明らかにされた海成堆積物の高度分布とその年代から,完新世において姶良カルデラを中心としたドーム状隆起が明らかにされている.それは,歴史時代以降の桜島の火山活動と姶良カルデラを中心とする地盤変動との関係からみて,姶良カルデラの火山活動に起因する緩慢な隆起によることが示唆されている.変動の指標となる完新世の最高位海成段丘面(隼人面)は,示唆されたドーム状隆起と対応した高度分布を示す.すなわち鹿児島湾奥北岸の国分平野では,隼人面は平野西端で海抜高度約15m,東側では約5mとなり,東方に高度を減ずる東西の傾動と対応する.湾奥北西岸の姶良平野では隼人面は現海岸線に沿って海抜高度約7-10mを示し,海岸沿いでの隼人面の高さに顕著な変化は認められない.湾奥南西岸の甲突川平野では北部において約10mの海抜高度を持つ顕著な海成段丘がみられるが,南部では高度を減じ,平野は離水途上にある.このように隼人面の高度分布は,姶良カルデラを中心としたドーム状隆起を反映していることは明らかである.しかし,段丘面の離水年代はかなり幅がある.詳しい年代が特定された北西岸の姶良平野においては,離水開始から終了まで3000年以上の幅がある.このように隼人面の形成は比較的長期にわたり,変動基準面という視点からみると必ずしも同時期形成とはいえない.それは,火山活動に伴うドーム状隆起が緩慢に生じたことにより,段丘面の離水が徐々に進行したためであると考える.こうした段丘形成は海溝性の地震性地殻変動区でみられる急激な隆起に伴う完新世海成段丘の形成とは異なるものとして注目される.
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