研究概要 |
1.高山帯地すべりの性状(分布・地質・年代・誘因)をさらに明らかにするために,飛騨山脈白馬岳・水晶岳・薬師岳・蝶ヶ岳,赤石山脈地蔵ヶ岳・甘利山・櫛形山において地形・地質調査を実施した.特に,飛騨山脈水晶岳では更新世後期~完新世に発生したことが疑われていた高天原地すべりについて詳細な調査を行い,岩相や地形形態に関するデータを得たほか,年代試料の予備調査も実施した.また赤石山脈では奈良-平安時代に発生した地蔵ヶ岳ドンドコ沢岩屑なだれについて,年輪ウィグルマッチングを援用した高精度年代測定を新たに行った.この結果,同イベントはAD778~793の期間に発生したことが明らかとなり,誘因として続日本紀に記載されているAD779年9月の豪雨が有力な候補となり得ることを突きとめた,さらに,甘利山・櫛形山では更新世後期および完新世の広域火山灰を挟在する地すべり天然ダム湖沼堆積物を新たに発見し,同山地における斜面変動時期の解明に向けた具体的根拠を得た. 2.飛騨山脈における高山湖沼の成立と地すべりとの関係を,衛星データや地質データ,数値標高モデルを用いて統計解析した.この結果,同山脈(特に北部)における高山湖沼の成立には地すべりやそれに関連した微地形(線状凹地等)が有意な影響を及ぼしていることが判明した.またこれとは別に,平成22年度までに飛騨山脈烏帽子岳周辺・蝶ヶ岳周辺で採取した地すべり性湖沼堆積物の珪藻分析を予備的に行い,隣接する湖沼ごとに異なる群集が認められることを見いだした.今後,珪藻群集の拡散過程等を検討する予定である.さらに,烏帽子岳や蝶ヶ岳における高山帯地すべりと植生分布の関係を,主に空中写真判読や衛星画像解析にもとづき検討した. 3.研究成果の公表に努め,査読論文や口頭発表を行った.
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