本研究は、活断層の活動実態を、活動区間とその活動特性に注目して取り扱おうとする試みであり、そのための有用な基礎資料を入手し得る可能性を持つヨルダン渓谷地域が当面の研究対象となっている。今年度は最終年度に当たるので、大きな課題として取り残されたヨルダン・ヴァレー断層帯南半部の活動履歴調査を中心におき、2度の現地調査をヨルダン天然資源庁と共同で行った。 1)断層帯南半部におけるトレンチ調査とその成果 Karamaダム北西地区内の2ヶ所、左ずれ変位した小ワジの屈曲部(K2)とごく近い過去に断層線を横切って広がった湿地部(K1)にトレンチを掘削した。その結果、本断層帯南半部の最近の活動歴、それも最新活動時期を特定する手がかりをも含む極めて重要かつ貴重な資料が得られた。 2)最新変位地形の発見とそのマッピング 断層帯北半部のSnaikk Husain地区で、切断されて左ずれに食い違う小ワジを見出した。また、断層帯南半部でもZarqa川の北で、2つの小谷が切断、左ずれしており、見事な断層凹地・閉塞丘地形が形成されている。いずれも新鮮な形態をもち、未だ破壊されずに残っていることから、本断層帯の最新活動によって生じた可能性が高い。トータル・ステーションを用いて詳細図化を試み、それぞれの変位量を求めてみたところ、いずれも量的には似ていて10m余であることが明らかとなった。本断層帯の単位変位量に関する貴重な知見と考える。 3)ヨルダン・ヴァレー断層帯の活動像についての見通し 本断層帯を便宜的に南北2つに分け、それぞれの活動性を、リサン層堆積以後に限って見比べるに必要な資料を整えた。その結果、(1)変位地形の性格・生長度、(2)最新に近い地形面上に掘削したトレンチで読み取れる断層活動履歴情報、には著しい差がなく、また、(3)最新活動で生じた変位地形がともにほとんど破壊されずに残り、その変位量も類似している。これらは、北半部と南半部が別々に動いてきた可能性が低いことを示唆している。
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