平成22年度までの研究では、地上設置型散乱計の装置開発を行い、電波暗室で樹木からの電波反射強度の時間変化を調べた結果、数dBから5dB程度の変化を示した。 平成23年度は、より長期間の変化の様子をとらえるために、電波反射強度と直接関係する誘電率を測定する装置を樹木に装着し、数か月間の誘電率の変化について調べた。苫小牧国有林とつくば宇宙センター内の樹木(アカエゾマツ、アカマツ)で変化を調べた結果、誘電率で0.2程度から2程度までの日変化を示す樹木が、5ケース中、4ケースで見られた。また雨が降った後に最大で4程度誘電率が増える事例がいくつかの樹木で見られたが、雨が降ると必ず誘電率が増える訳ではなかった。また、ほとんど誘電率の変化を示さない樹木も1ケースあった。このことから、樹木誘電率変化と雨量の間には弱い相関があると結論付けた。また誘電率変化は日変化と雨が降った後で見られたが、後者の方がより大きな変化を示していた。 合成開口レーダ(PALSAR)を搭載した衛星は2012年の4月に運用が終わってしまったため、2007年~2010年の4年の間に、苫小牧で取られた10個の2偏波モードデータ(HH&HV偏波)を用いて、後方散乱係数の変化を調べた。その結果、1dB程度の変化が見られた。調査地から13km離れた場所に気象庁が設置したアメダスから得られた雨量と誘電率変化の相関を調べた結果、弱い相関があることが分かった。 以上の結果より、森林部で得られる後方散乱係数は雨が降ることによって、1dB程度変わることがありうるという結論に達し、後方散乱係数から森林バイオマスを精度よく求めるためには、このことを考慮したうえでデータを扱っていくことが必要である。これらの結果は、IEEE/Trans.Geosci.Remote Sensingに投稿された。
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