本研究では海水中の極微量のトリチウムを精度良く分析できるシステムを開発することを目的とする。トリチウムの測定にはヘリウム-3イングロウ法を用いる。これはトリチウムが放射壊変してできる娘核種のヘリウム-3を測定することで間接的にトリチウム濃度を分析する方法である。この方法を用いるにはまず海水に溶存しているヘリウムを完全に脱ガスし、その後密閉して数ヶ月管保管する必要がある。そのための装置をまず開発した。真空バルブを備えた金属製の容器を用意し、真空にした後密閉して空気が混入しないか確かめた。その後蒸留水を保管容器に入れ溶存ヘリウムの脱ガス方法を検討したが、完全に脱ガスすることはできず今後方法を検討し直す必要があることがわかった。 2004年にニュージーランド東方沖の南太平洋で採取した海水のトリチウムーヘリウム-3年代を求め、年代の妥当性とその年代から推定される南極中層水の沈み込みについて考察した。トリチウム濃度は電解濃縮した後液体シンチレーションカウンターで分析したものを使った。求めた年代から南極中層水の沈み込みと共に年代が古くなることが確認され、沈み込みの時間スケールに関して重要な知見が得られた。 東京大学海洋研究所運用の研究船白鳳丸によるインド洋を縦断する航海(KH-09-5次航海)において、南極中層水の沈み込みの研究を視野に入れて南インド洋で海水試料の採取を行なった。ヘリウム分析用は銅管に、トリチウム分析用はポリプロピレン容器に空気ができるだけ入らないように採取した。インド洋における南極中層水の沈み込みについて上記の南太平洋の観測と比較できる貴重な試料が得られた。
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