本年度実施した内容は以下の通りである。 1. 熱帯~亜熱帯太平洋域のサンゴ年輪データの解析 NOAA/NCDCのウェブサイトよりこれまで論文として公表されたサンゴ年輪の酸素同位体比分析結果及び水温データ、南西諸島域における研究結果を組み合わせ、西部太平洋域については、亜熱帯~熱帯にわたり、海水淡水化傾向はみられず、熱帯太平洋域については、東部ほど淡水化傾向が顕著になる、傾向が得られた。一般に、エルニーニョ期には熱帯中部~東部太平洋域は降水量増大に伴い塩分が低下し、西部太平洋の亜熱帯~熱帯域では降水量低下により塩分は一定かまたは増加する特徴が見られる。本研究で得られた定性的傾向は、長期的にエルニーニョ様の気候状態へと変化しつつあることを示唆していると言える。 2. 海水酸素同位体比を塩分へと変換するためのアルゴリズムの構築と実行 サンゴ骨格の酸素同位体比は形成時の水温と海水の酸素同位体比の二成分で決定される。まず水温1℃の変化に対して同位体比が-0.18‰変化することを先行研究のレビューに得た。この数値と観測された水温データにより、骨格酸素同位体比のうち、水温変化寄与分を取り除く事ができ、海水の酸素同位体比の変化を得る事ができた(上記)。海水の酸素同位体比を塩分に換算するために、パラオ及び与那国島については、申請者によって得られている関係式を用いて換算可能であるが、海水同位体比の長期傾向がほぼ一定であったため、塩分の長期傾向もほぼ一定であった。海水の酸素同位体比に有意な変化が見られた中部~東部熱帯太平洋域については、NASAの再解析データを用いて地点毎に海水同位体比と塩分の関係式を構築し、それらを用いて換算した。 3. 成果公表(論文)について 海水の酸素同位体比分析法として汎用されている、二酸化炭素との同位体交換平衡を利用した計測を、従来不可能とされていた三種同位体比計測へと応用させ、そのために必要な計測条件や計算アルゴリズムを確立した。 その他今年度は3編の論文と2報の国際学会口頭発表、1回の招待講演を行った。
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